暗号資産の損失繰越はできない?FX・株との税制の違い
株式投資やFXで認められている「損失繰越控除」。暗号資産(仮想通貨)でも使えると思っていませんか?実は雑所得では損失繰越ができません。その理由と対策を解説します。
執筆:しぐ ・ 更新日: 2026-06-17
「2023年に暗号資産で100万円の損失を出した。2024年の利益100万円と相殺できる?」——残念ながら、現行の日本の税制では暗号資産の損失を翌年に繰り越すことができません。
これは株式やFXと比べて著しく不利な扱いです。同じ金融商品の損失なのに、暗号資産だけなぜ繰越できないのか、そして現行税制でできる合法的な節税対策とは何か——この記事で詳しく解説します。
1. 損益通算・損失繰越の基本
投資の損失を税金に反映する仕組み
投資で損失が出た場合、その損失を「税金の計算に使える仕組み」が日本の税制には存在します。
損益通算: 同一年内の別の利益と損失を相殺する 損失繰越控除: 損失を翌年以降に持ち越し、その年の利益と相殺する
これらの制度を使うことで、複数年にわたる損益を合算した「実態に近い課税」を受けられます。
株式・FXと暗号資産の比較
| 項目 | 上場株式(申告分離課税) | FX(申告分離課税) | 暗号資産(雑所得) |
|---|---|---|---|
| 税率 | 一律20.315% | 一律20.315% | 総合課税(累進課税・最大55%) |
| 損益通算 | 同種間で可能 | 可能 | 同種(雑所得)内のみ |
| 損失繰越 | 3年間 | 3年間 | 不可 |
| 損失の他所得との相殺 | 一部可能 | 不可 | 不可 |
暗号資産は「雑所得(総合課税)」扱いであるため、損失の繰越控除が認められていません。この点が、株式・FXと比べて最も不利な点の一つです。
※令和8年度税制改正大綱で特定暗号資産は3年間の繰越控除導入が決定。早ければ2028年分から適用される見込みです。現行(2026年分)は不可です。
2. 暗号資産の損失繰越ができない理由
雑所得という分類の問題
日本の所得税法では、所得を以下の10種類に分類しています: 給与所得、事業所得、利子所得、配当所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得、退職所得、一時所得、雑所得
暗号資産の取引利益は現在「雑所得(総合課税)」として扱われます。雑所得は他の所得との損益通算が基本的に認められず、翌年への繰越控除も不可です。
なぜ株とFXは繰越できるのか
上場株式とFXには「申告分離課税」という特別な課税方式が適用されており、この方式では損失繰越が認められています。暗号資産もこの申告分離課税に移行すべきという議論が続いており、令和8年度税制改正大綱(令和7年12月)で特定暗号資産を申告分離課税20.315%とし損失の3年繰越控除を導入する方針が決まりました。ただし適用は早くても2028年分からの見込みで、2026年現在はまだ繰越控除は実現していません。
3. 「不合理」な課税の具体例
トータルでゼロなのに税金が発生する
最も理不尽に見える事例:
- 2023年:暗号資産で100万円の損失
- 2024年:暗号資産で100万円の利益
- 2年間のトータル:プラスマイナスゼロ
この場合、2023年の損失は翌年に繰り越せないため、2024年の100万円の利益に丸々課税されます。税率30%なら30万円の税金を払うことになります。
トータルではゼロの成績なのに、30万円の実質損失が生まれます。
損失が出た年も申告する必要があるか
年間を通じて利益よりも損失が大きく、雑所得がゼロ以下であれば、暗号資産については確定申告義務はありません(住宅ローン控除や医療費控除など、他に申告すべき事情がある場合を除く)。ただし「損失を記録しておく」ことは重要です。
同年内の損益通算(暗号資産同士) は可能であるため:
- BTC:+100万円
- ETH:−60万円
- 課税対象:40万円(BTC利益からETH損失を差し引ける)
ただしこれは「同年内」の話です。ETHの損失を翌年に繰り越すことはできません。
4. 現行税制でできる合法的な節税策
節税策①:年内の「損出し(損失確定)」
年末までに含み損を抱えた暗号資産を実際に売却して損失を確定させ、その年の利益と相殺します。
例:12月決算の損出し
| 銘柄 | 含み損益 | 操作 | 課税への影響 |
|---|---|---|---|
| BTC | +200万円の利益確定済み | 売却済み | 課税対象200万円 |
| ETH | −80万円の含み損 | 12月に売却! | 課税対象200−80=120万円 |
ETHを年内に売ることで、同年のBTCの利益と相殺できます。税率30%なら「80万円×30%=24万円」の節税効果があります。
注意点: 個人の所得税は原則「総平均法」(その年の購入をすべて平均して取得単価を出す方式)のため、同じ年内に売って同量を買い戻すと、確定できる損失が圧縮されます(買い直し分が平均取得単価に混ざるため)。損失を満額活かしたいなら、その年は買い戻さず、保有を続けたい場合は翌年に買い直すのが基本です。
節税策②:利益の分割(年をまたいだ利確)
年間の課税所得を意識して利確を複数年に分けると、税率ブラケットの上昇を抑えられる場合があります。所得税は課税所得が大きいほど税率が上がる累進課税だからです。
例:給与による課税所得が400万円の会社員が、含み益600万円を利確するケース
- 年内に一括利確:その年の課税所得は約1,000万円。900万円を超えた部分は所得税33%(住民税10%と合わせ約43%)の帯に入ります。
- 2年に分割(年末と年始に300万円ずつ):各年の課税所得は約700万円にとどまり、所得税23%(住民税10%と合わせ約33%)の帯に収まります。
ただし相場の変動リスクがあるため、税率だけで利確時期を決めるのは禁物です。なお令和8年分は、合計所得が489万円を超えると基礎控除が104万円→67万円、655万円超で62万円と段階的に縮みます。暗号資産の利益でこの段階を越えると、課税所得が「利益額」以上に増える(実際の税負担が大きくなる)点にも注意が必要です。
節税策③:収入が少ない年に利確する
育児休業、退職後の無収入期間、副業が減った年など、給与所得が少ない年は暗号資産の利益との合算で税率が低くなります。
例:育休で給与所得がゼロの年(合計所得は489万円以下とする)
- 暗号資産の利益:200万円
- 基礎控除(令和8年分・所得税):104万円
- 課税所得:約96万円 → 所得税率5%(住民税10%と合わせた限界税率15%)
- この年の税額の目安:所得税 約4.8万円+住民税 約15.7万円=約20万円(利益200万円に対し実質約10%)
通常の課税所得700万円の年(暗号資産分は所得税23%+住民税10%の帯)に比べて、大幅に税負担を下げられます。
節税策④:ふるさと納税の活用
暗号資産の利益で雑所得が増えても、ふるさと納税の控除上限は住民税所得割額に連動しています。雑所得が大きくなるほど控除上限も上がります。
大きな利益が出た年は、ふるさと納税を最大限活用することで住民税の一部を「好きな自治体への寄付」に振り替えられます。
5. 申告分離課税への移行(令和8大綱で方針決定)
業界団体の要望と大綱での決定
日本暗号資産取引業協会(JVCEA)を含む業界団体が長年要望してきたのが:
- 申告分離課税20.315%への変更(株・FXと同等)
- 損失の3年繰越控除の許可
- 暗号資産同士の交換を非課税扱いに
このうち①②は令和8年度税制改正大綱(令和7年12月)で方針が決定しました(③の暗号資産同士の交換の非課税化は引き続き措置されていません)。実現すれば暗号資産投資家の税負担は大幅に軽減され、特に高収入者にとって55%から20.315%への引き下げは劇的な変化です。
実現までの見通し
税制改正は毎年12月に「与党税制改正大綱」として発表され、翌年3月の国会審議を経て実施されます。令和7年12月公表の令和8年度税制改正大綱では、金融商品取引業者が扱う「特定暗号資産」(現物・暗号資産投資信託・デリバティブ取引)の利益を申告分離課税20.315%とし、損失の3年繰越控除と分離課税グループ内での損益通算を導入する方針が示されました。ただし適用時期は金融商品取引法の改正法が施行された日の属する年の翌年1月1日からとされ、早ければ2028年1月1日以降の取引分が対象となる見込みです(施行時期は未確定)。海外取引所・DEXでの取引は対象外となる可能性があり、2026年分の取引は引き続き雑所得・総合課税・繰越不可です。
6. よくある質問
Q. 暗号資産の損失を株の利益と相殺できますか?
現行税制ではできません。暗号資産の損失は「雑所得内」でのみ通算可能で、株式(申告分離課税)の利益との相殺は認められていません。
Q. 専業トレーダーなら損失繰越できますか?
「事業所得」として認められれば、損失繰越や他所得との通算が一部可能になります。ただし事業所得として認定されるには、継続・反復・独立した事業活動という実態が必要で、税務署への相談・確認が必須です。単純に「専業」というだけでは認められません。
Q. 確定申告で「損失申告」はするべきですか?
年内の損益通算で損失額を記録しておくことは重要です。翌年への繰越はできませんが、同年内の他の雑所得(他の暗号資産の利益や副業の収入など)との相殺に使えます。また、将来的に損失繰越が認められた場合に備えて、年次の申告書と損益計算書を保存しておくことをおすすめします。
まとめ
暗号資産の税制は現行(2026年)では株式・FXと比べて不利な状況です。
- 損失繰越控除:現行(2026年分)は不可(株・FXは3年間可能。ただし令和8年度税制改正大綱で特定暗号資産の3年繰越控除導入が決定。早ければ2028年分から)
- 同年内の損益通算:可能(同種の雑所得内のみ)
- 他所得との損益通算:不可(給与所得等とは相殺できない)
現行税制でできる節税策:
- 損出し:年末までに含み損を確定させて同年の利益と相殺
- 利確タイミングの分割:年をまたいで税率ブラケットを管理
- 収入が少ない年に利確:ライフイベントを活かした節税
- ふるさと納税の最大活用:雑所得増加分の控除上限を使い切る
申告分離課税への移行は令和8年度税制改正大綱で導入方針が決まり、損失の3年繰越控除も早ければ2028年分から導入される予定です。ただし施行時期は未確定で、実現するまでは現行ルール(雑所得・総合課税・繰越不可)を前提に計画を立てることが重要です。
暗号資産の課税タイミング全般については暗号資産の税金:いつ課税されるのかで解説しています。
損失が出た年の確定申告と記録管理の実務
損失繰越ができない現行制度のもとでも、損失が出た年の確定申告と記録管理は重要な意味を持ちます。実務上の注意点を整理しておきましょう。
損失が出た年も取引記録を残す理由
暗号資産の損失は翌年に繰り越せませんが、「いつ・いくらで購入し・いつ・いくらで売却したか」という取引記録は必ず保存しておく必要があります。理由は主に2つあります。
1つ目は、同年内の損益通算のためです。複数の暗号資産を保有している場合、ある銘柄の損失と別の銘柄の利益は同年内であれば相殺できます。この計算には正確な取引記録が必要です。
2つ目は、税制改正への備えです。申告分離課税への移行と損失の3年繰越控除は令和8年度税制改正大綱で方針が決定済みですが(施行は早ければ2028年分から・時期は未確定)、移行前(2026年分以前)の損失を遡って繰り越せるかは現時点で明確ではありません。過去の申告書・損益計算書が手元にあれば、いずれの扱いになっても対応しやすくなります。
取引所ごとの損益計算の注意点
複数の取引所を利用している場合、損益計算が複雑になります。各取引所の年間損益報告書をダウンロードして合算する必要がありますが、「取引所Aでは利益、取引所Bでは損失」という状況でも、同年内であれば合算して申告できます。
取引所の年間損益報告書の発行時期は業者によって異なります(多くは翌年1〜3月)。確定申告の期限(3月15日)に間に合うよう、早めに書類を入手する計画を立てておきましょう。
損出し後の「取得単価リセット」は買い直すタイミング次第
損出し(含み損の確定)後に同じ銘柄を買い直すと取得単価が下がるイメージがありますが、個人の所得税は原則「総平均法」のため、買い戻すタイミングで結果が変わります。
- 同じ年内に売って買い戻す場合:買い直し分がその年の平均取得単価に混ざり、確定できる損失が圧縮されます。たとえば100万円で買ったコインを40万円で損出しし、同じ年に40万円で買い直すと、その年の取得単価は平均70万円((100万+40万)÷2)となり、確定損失は60万円ではなく30万円に目減りします。
- 翌年以降に買い直す場合:その年は損失60万円を満額確定でき、翌年に40万円で買い直せば取得単価は40万円になります。その後100万円に戻ると「60万円の利益」として課税される可能性があります。
いずれにせよ損出しには「将来の課税を前倒しする」側面があることを念頭に置いておきましょう。
税制改正を先読みした保有戦略
令和8年度税制改正大綱で導入方針が決まった申告分離課税への移行が実現すれば、利益に対する税率が最大55%から20.315%に下がり、損失の3年繰越控除も使えるようになる見込みです(早ければ2028年分から・施行時期は未確定)。このため「税制改正を見越して今は利確を抑える」という判断をする投資家もいます。
ただし、税制改正の実現時期は未確定であり、改正前に相場が大きく下落するリスクもあります。税制改正の見込みのみに基づいた投資判断は慎重に行う必要があります。投資の基本は「相場の状況」に基づく判断を優先し、税制の変化は「追加的な考慮要素」として位置づけることが安全です。
暗号資産の税金を試算する
損出しの節税効果や、利確タイミング別の税額をシミュレーションできます。確定申告前に確認しましょう。
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