相続税はいくらからかかる?「3000万円+600万円×人数」の基礎控除と節税策

「うちは普通の家庭だから関係ない」は危険。不動産高騰で増える課税対象者、小規模宅地等の特例、生命保険の非課税枠、養子縁組による節税テクニックまで徹底解説。

「相続税なんて、一部のお金持ちだけの話でしょ?」そう思っていませんか?

2015年の税制改正で基礎控除額が大幅に引き下げられ(6割に縮小)、都市部に持ち家がある一般的なサラリーマン家庭でも相続税の対象になるケースが急増しています。国税庁データでは、2024年時点で相続税の課税割合は約10%(亡くなった方の約10人に1人が対象)まで上昇しています。特に東京・大阪・名古屋圏では20〜30%を超える地域もあります。

この記事では、相続税がかかるかどうかのボーダーライン、具体的な税額計算、土地評価の減額特例、生命保険の活用、生前対策まで詳細に解説します。


1. 基礎控除:相続税がかかるかどうかのボーダーライン

相続財産の総額が**「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」**を超えると相続税の申告・納税が必要です。この金額以下であれば、申告自体が不要です。

基礎控除額の早見表

法定相続人の数基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円
5人6,000万円

計算例:父死亡・母と子2人が相続する場合

法定相続人は3人(母・子・子)です。 基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円

父の遺産(自宅不動産 + 預貯金 + 株)が4,800万円以下なら税金ゼロ。超えた部分に相続税がかかります。

法定相続人とは

法定相続人は民法で定められた相続人です。

順位相続人備考
常に相続人配偶者婚姻届が必要
第1順位子(直系卑属)子が先に亡くなっている場合は孫
第2順位父母(直系尊属)子がいない場合
第3順位兄弟姉妹子も親もいない場合

2. 相続財産に含まれるもの・含まれないもの

課税対象となる財産

財産の種類評価方法
現金・預貯金残高そのまま
不動産(土地)路線価方式または倍率方式
不動産(建物)固定資産税評価額
上場株式・ETF(上場投信)課税時期(死亡日)の終値・当月・前月・前々月の各月平均終値のうち最も低い額
投資信託(非上場)課税時期(死亡日)に解約・買取請求した場合の受取額(基準価額から源泉税・信託財産留保額等を控除)
非上場株式類似業種比準価額または純資産価額
生命保険金(非課税枠超過分)受取金額(みなし相続財産)
退職金(非課税枠超過分)受取金額(みなし相続財産)
名義預金実質的に被相続人の資金なら課税
デジタル資産(仮想通貨等)死亡日の時価
死亡前7年以内の生前贈与贈与時の価額(2024年改正)

名義預金は特に注意が必要です。子や孫の口座に入っていても、被相続人が管理・拠出していた資金は相続財産として含まれます。税務調査でNo.1の指摘事項です。

非課税財産

  • 墓地・仏壇・祭具(祭祀財産)
  • 国や地方公共団体への寄付
  • 生命保険金・退職金の非課税枠内の金額

3. 相続税の計算手順

相続税の計算は以下の5ステップで行います。

ステップ1:課税遺産総額を求める

相続財産の総額 − 非課税財産 − 葬儀費用 − 借金 − 基礎控除 = 課税遺産総額

ステップ2:法定相続分で按分した税額を計算

課税遺産総額を法定相続分(相続人の取り分の割合)で分け、各自の取り分に税率を適用します。

相続税の税率表

法定相続分に応じた取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

ステップ3:各相続人の税額を合算(相続税の総額)

ステップ4:実際の取得割合で按分

ステップ5:各種控除を差し引く

配偶者控除・障害者控除・未成年者控除などを適用し、実際の納税額を確定します。

具体的な計算例

設定:父死亡、遺産7,000万円、相続人は母・子A・子B(3人)

  • 基礎控除:3,000万 + 600万 × 3 = 4,800万円
  • 課税遺産総額:7,000万 − 4,800万 = 2,200万円

法定相続分:母1/2(1,100万円)、子A 1/4(550万円)、子B 1/4(550万円)

相続人法定相続取得額税額(税率適用)
1,100万円1,100万×15%−50万 = 115万円
子A550万円550万×10% = 55万円
子B550万円550万×10% = 55万円
相続税総額225万円

この225万円を実際の取得割合で按分します。母が1/2取得なら母の税負担は112.5万円。ただし配偶者控除(配偶者は1億6,000万円または法定相続分まで非課税)が適用されると、母の実際の納税はゼロになる場合がほとんどです。


4. 土地の評価額を80%減らす「小規模宅地等の特例」

相続財産で最も評価が大きくなりがちなのが自宅の土地です。しかし、住み続けたい家族が納税のために家を売るのを防ぐため、小規模宅地等の特例が設けられています。

特定居住用宅地等(自宅用地)

条件面積上限減額割合
配偶者が取得330㎡80%減額
同居の子が取得(引き続き居住)330㎡80%減額
家なき子(一定条件あり)330㎡80%減額

「家なき子」とは、相続前3年以内に自己または配偶者所有の家に住んでいない相続人のことです(2018年改正で厳格化)。

計算例

土地評価額5,000万円の自宅(320㎡)を同居の子が相続する場合:

  • 特例あり:5,000万円 × 20%(80%減額後) = 1,000万円
  • 特例なし:5,000万円のまま課税対象

4,000万円の評価圧縮になります。これにより基礎控除内に収まるケースが多くあります。

事業用宅地等・貸付用宅地等

用途面積上限減額割合
特定事業用宅地(個人事業主の事業地)400㎡80%減額
特定同族会社事業用宅地400㎡80%減額
貸付事業用宅地(賃貸アパート等)200㎡50%減額

5. 生命保険の「500万円×人数」非課税枠

死亡保険金には、500万円 × 法定相続人の数という非課税枠があります。

活用例の比較

財産の持ち方財産額課税対象
預貯金1,500万円1,500万円1,500万円全額
死亡保険金1,500万円(相続人3人)1,500万円500万×3=1,500万→非課税0円

1,500万円の預貯金をそのまま残すより、生命保険に切り替えるだけで1,500万円分の評価を圧縮できます。

退職金にも同じ非課税枠

死亡退職金にも「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります。生命保険と合算でそれぞれ適用されます。

相続人3人の場合の合計非課税枠:

  • 生命保険:500万 × 3 = 1,500万円
  • 退職金:500万 × 3 = 1,500万円
  • 合計:3,000万円

生命保険活用のメリット

メリット内容
評価圧縮非課税枠内なら相続財産からゼロ評価
納税資金確保相続税の申告期限(10ヶ月)までに現金が確実に手に入る
受取人固定遺産分割協議とは別に特定の人へ確実に渡せる
迅速な受取相続手続きより早く現金化できる

6. 生前贈与で相続財産を減らす

相続税の対策で最も基本的なのが生前贈与です。贈与税の非課税枠(年110万円)を活用して、生前に少しずつ財産を渡しておくことで、相続財産を圧縮できます。

贈与税の基礎控除(暦年課税)

年間110万円までの贈与は非課税です。受け取る側(受贈者)1人あたりに適用されます。

贈与先年間贈与額贈与税
子1人110万円0円
子2人各110万円各0円
孫3人各110万円各0円

子2人・孫3人の合計5人に毎年110万円ずつ贈与すれば、年間550万円を無税で移転できます。10年続ければ5,500万円の相続財産を減らせる計算です。

2024年改正:生前贈与加算の期間が3年→7年に延長

重要な注意点: 2024年1月以降の贈与について、相続前の生前贈与加算期間が3年から7年に段階的に延長されます。加算期間は「相続開始(死亡)の時期」で決まります。

相続開始(死亡)の時期加算される生前贈与期間
2026年まで相続前3年(従来どおり)
2027〜2030年移行期(3年超〜順次延長)
2031年以降相続前7年(完全移行)

延長された加算期間(相続前3年より前〜7年目の贈与)については、合計100万円を控除した金額が加算対象になります。

相続時精算課税制度(2024年改正後)

2024年1月から相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が追加されました。

制度非課税枠特徴
暦年課税年110万円相続前7年分が加算(改正後)
相続時精算課税2,500万円(特別控除)+ 年110万円(基礎控除)2024年新設の年110万は加算なし

相続時精算課税を選ぶと、2,500万円まで一時的に非課税で贈与でき(相続時に精算)、年110万円の枠は相続加算なしで永続的に使えます。


7. 養子縁組で法定相続人を増やす

養子縁組をすると法定相続人が1人増え、以下の効果があります。

  • 基礎控除が600万円増加
  • 生命保険・退職金の非課税枠が各500万円増加
  • 合計1,100万円の非課税枠追加

孫養子の節税効果

孫を養子にすると子(第1順位相続人)として相続でき、相続が一世代飛ぶため相続税を一度省略できます。

ただし制限があります:

  • 実子がいる場合:養子は1人のみ基礎控除等にカウント
  • 実子がいない場合:養子は2人までカウント

注意点

税務署から「節税目的の養子縁組」と判断されると否認リスクがあります。実際の親子関係に近い状況(同居・養育実績など)があることが望ましいです。また養子に法定相続分が与えられるため、遺産分割での揉め事になるケースもあります。


8. 借金がある場合:3つの選択肢

プラスの財産だけでなく借金も相続されます。借金が多い場合は以下の方法で対処できます。

単純承認

プラスもマイナスもすべて引き継ぐ。手続き不要(相続開始から3ヶ月経過で自動承認)。

相続放棄

最初から相続人でなかったことになります。借金はゼロになりますが、プラスの財産も一切もらえません。期限:相続開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続き。

相続放棄をすると次順位の相続人(兄弟姉妹など)に相続権が移ります。家族全員での連鎖放棄が必要になることも。

限定承認

プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ。

例:預金1,000万円・借金2,000万円の場合、1,000万円だけ返せば残り1,000万円の借金は帳消しになります。ただし、相続人全員の同意が必要で手続きが複雑なため実務上はほとんど使われません。


9. 相続税の申告・納税の期限と手順

期限

相続税の申告と納税は相続開始(死亡)を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

申告が必要なケース

  • 相続財産が基礎控除額を超える
  • 小規模宅地等の特例などを使って税額がゼロになる場合でも申告は必要

申告手順

  1. 財産目録の作成(不動産・預金・株・保険等)
  2. 各財産の評価額計算(路線価図、残高証明書等)
  3. 相続税申告書の作成(税務署またはe-Tax)
  4. 現金一括納付(原則)
  5. 延納・物納(現金が難しい場合の特例)

必要書類の例

書類入手先
戸籍謄本(被相続人・相続人全員)市区町村役場
固定資産税評価証明書市区町村役場
預金残高証明書各金融機関
株式残高証明書証券会社
生命保険金支払通知書保険会社

10. よくある質問

Q. 相続税の課税対象者は全体の何%くらいか?

2022年度で約9.6%(亡くなった方の約10人に1人)。2015年の改正前は約4%でした。東京都特別区では約20%超が課税対象という地域もあります。

Q. 兄弟で相続を巡って揉めた場合はどうなるか?

遺産分割協議が成立しないと相続税の申告期限(10ヶ月)が迫ります。未分割のまま申告する場合、配偶者控除・小規模宅地等の特例は原則使えません(申告後の「更正の請求」で後から適用可能なケースあり)。揉めそうな場合は生前に遺言書を作成しておくことが最善の対策です。

Q. タンス預金は税務署にバレないか?

税務署は銀行の入出金履歴を調査する権限を持っています。大量の出金記録があって遺産に現金が少なければ税務調査の対象になります。現金も相続財産として正直に申告することが必要です。

Q. 配偶者に全額渡せば相続税はかからないか?

配偶者控除により、配偶者が相続する財産は1億6,000万円まで(または法定相続分まで)非課税です。ただし二次相続(配偶者が亡くなった時の相続)まで考えると、子への負担が大きくなることがあります。一次相続で子にも適度に分散させる「二次相続対策」が重要です。


まとめ

  • 相続税の基礎控除は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数」
  • 都市部の持ち家は土地評価だけで基礎控除を超えるケースが多い
  • 小規模宅地等の特例(居住用330㎡まで80%減額)が最大の節税策
  • 生命保険・退職金はそれぞれ「500万円 × 相続人数」の非課税枠
  • 生前贈与(年110万円)の加算期間が2024年以降に3年→7年へ段階延長(相続開始2026年までは3年・2031年以降で完全7年)
  • 申告期限は相続開始から10ヶ月以内(特例を使う場合は申告必須)
  • 対策は「今いくら持っているか」の財産目録作成から始まる

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