退職金の税金はなぜこんなに安いのか?「退職所得控除」と「1/2課税」の威力

老後の資金を守る最強の税制優遇。勤続年数ごとの控除額計算、役員退職金の特例(1/2なし)、iDeCoや小規模企業共済との併用テクニックまで。

長年勤め上げた最後の対価、退職金。数千万円という大金が動くため「一体どれだけ税金で持っていかれるのか」と不安になるかもしれません。

しかし、日本の税制において退職金はあらゆる収入の中で最も優遇されています。同じ2,000万円を受け取っても、給与として受け取るのと退職金として受け取るのでは、手元に残る金額に数百万円の差が出ることもあります。

この記事では、退職金の税金が安い「2つの仕組み」、勤続年数別の退職所得控除の計算、一時金 vs 年金の比較、役員・短期退職者の注意点、iDeCoや小規模企業共済との併用まで詳細に解説します。


1. 退職金の税金が安い「2つの強力な仕組み」

退職金の税金が安い理由は主に2つあります。

  1. 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな金額が非課税になる
  2. 1/2課税:控除後の残額のさらに半分にしか税金がかからない

この二重のガードにより、一般的なサラリーマンの退職金は実質税率が数%〜10%程度に抑えられます。

退職所得の算出ステップ


2. 勤続年数で決まる「退職所得控除」

勤続年数退職所得控除額の計算式
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)

勤続年数別の控除額早見表

勤続年数退職所得控除額
5年200万円
10年400万円
15年600万円
20年800万円
25年1,150万円
30年1,500万円
35年1,850万円
38年2,060万円
40年2,200万円

勤続38年では2,060万円まで非課税です。これを超えた部分にのみ、さらに1/2課税が適用されます。


3. 魔法のルール「1/2課税」と例外

退職所得控除を引いた後の残額に、さらに強力なルールが適用されます。

課税退職所得 = (退職金収入 − 退職所得控除額)÷ 2

控除を引いた残額の「半分」にしか税金がかかりません。これが給与所得(全額課税)との決定的な違いです。

計算例

退職金勤続年数退職所得控除課税退職所得(1/2後)所得税(概算)
1,000万円20年800万円(1,000−800)÷2 = 100万円約5万円
2,000万円30年1,500万円(2,000−1,500)÷2 = 250万円約15万円
3,000万円38年2,060万円(3,000−2,060)÷2 = 470万円約51万円
5,000万円40年2,200万円(5,000−2,200)÷2 = 1,400万円約308万円

3,000万円の退職金でも税金は約51万円(実効税率1.7%)という低水準です。

例外①:特定役員退職手当等(役員5年以下)

役員としての勤続年数が5年以下の場合、1/2課税が適用されません。全額課税されます。短期間だけ役員になって高額退職金を受け取る節税スキームへの対策です。

例外②:短期退職手当等(2022年改正)

役員以外でも勤続年数が5年以下の場合、「退職金 − 退職所得控除額」が300万円を超える部分について1/2課税が適用されません(令和4年改正・短期退職手当等)。300万円は退職金そのものではなく、退職所得控除を差し引いた後の金額に対する基準である点に注意してください。

勤続5年・退職金600万円の場合(退職所得控除=40万円×5年=200万円)課税方法
控除後=600万円 − 200万円 = 400万円このうち300万円までは1/2課税
控除後300万円を超える100万円全額課税(1/2なし)
退職所得300万円 × 1/2 +(400万円 − 300万円)= 250万円

※控除後が300万円以下なら全額が通常どおり1/2課税されます(例:退職金500万円・勤続5年は控除後ちょうど300万円なので、1/2不適用部分は生じず退職所得は150万円)。


4. 「一時金」vs「年金」どちらが得か

退職金を一括(一時金)で受け取るか、分割(年金)で受け取るか選べる企業が多いです。

一時金(一括受取)

項目内容
税制区分退職所得
メリット退職所得控除・1/2課税がフル活用できる。社会保険料がかからない
デメリット一度に大金が入るため運用責任が自分になる

年金(分割受取)

項目内容
税制区分雑所得(公的年金等)
メリット生活費として安定受取。運用継続で総額が増える場合もある
デメリット公的年金と合算され税金増加。社会保険料(健康保険・介護保険)も増える

一時金 vs 年金の手取り比較(退職金2,000万円・勤続30年のケース)

受取方法税金社会保険料増加実質手取り
一時金約0〜20万円ほぼなし約1,980〜2,000万円
年金(月10万円・20年)約50〜100万円年5〜15万円×20年=100〜300万円約1,600〜1,850万円

一時金の方が実質手取りが大きくなるケースが多いです。


5. 退職金の税額シミュレーション

実際の税額をいくつかの勤続年数・退職金のパターンで確認します。

退職金1,500万円の税額

勤続年数退職所得控除課税退職所得所得税(概算)住民税(10%)手取り概算
10年400万円(1,500−400)÷2 = 550万円約69万円約55万円約1,376万円
20年800万円(1,500−800)÷2 = 350万円約28万円約35万円約1,437万円
30年1,500万円0円0円0円1,500万円(全額手取り)

勤続30年なら1,500万円の退職金が全額非課税です。

退職金3,000万円の税額

勤続年数退職所得控除課税退職所得合計税額(概算)
20年800万円1,100万円約324万円
30年1,500万円750万円約186万円
38年2,060万円470万円約99万円
40年2,200万円400万円約78万円

6. 小規模企業共済・iDeCoとの併用テクニック

自営業者や会社役員は「小規模企業共済」を使うケースが多く、iDeCoとの受け取りスケジュールが重要です。

各制度の控除枠調整ルール

制度調整ルール
iDeCo(一時金)前年以前19年内に退職金を受け取ると控除額が調整される(据え置き)
会社退職金前年以前9年内にiDeCo等の確定拠出年金一時金を受け取ると控除額が調整される(2026年改正で4年→9年。他の会社退職金は前年以前4年内)
小規模企業共済前年以前4年内に他の退職金を受け取ると調整(iDeCo等の確定拠出年金一時金が先の場合は前年以前9年内。共済金一時金も退職所得=改正対象)

控除枠を活かす受取スケジュール

  1. 60歳:iDeCoを一時金で受け取る(iDeCo加入年数分の控除をフル使用)
  2. iDeCoの受取年から暦年で10年差以上後(70歳など):会社退職金・小規模企業共済を受け取る(2026年改正後は受取年が暦年で10年差以上ないと控除枠がフル復活しない。判定は月単位でなく受取年ベース)

逆に「60歳で退職金 → 65歳でiDeCo」にすると、iDeCo側の控除枠がほぼゼロになり大増税になります(こちらの19年内ルールは据え置き)。


7. 申告書の提出を忘れずに

退職時、会社から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求められます。これは必ず提出してください。

状況結果
申告書を提出した会社が適切に税計算し源泉徴収。確定申告は不要
申告書を提出しなかった退職金総額の20.42%が一律源泉徴収。後で確定申告が必要

申告書の記入は氏名・住所・マイナンバー程度でほぼ完了します。未提出で数十万円の差が生じる場合があるため必ず提出しましょう。


8. よくある質問

Q. 住宅ローンの残債を退職金で一括返済すべきか?

金利によります。住宅ローン金利が0.5〜1%程度なら、退職金で返済せずに運用(年利3〜4%程度)した方が資産寿命が延びます。ただし精神的安定のために完済する選択もあります。税金の損得とは別の判断です。

Q. 退職金で投資を始めてもいいか?

退職直後に高リスク投資を始めることは推奨しません。銀行窓口では「退職金定期預金キャンペーン」を口実に手数料の高い商品を勧めてくるケースがあります。まずは普通預金に入れ、半年程度かけて勉強してから少額ずつ低コスト商品(インデックスファンド)で始めるのが王道です。

Q. 中途退職した場合の退職金の税金は?

計算式は同じです。勤続5年以下の場合のみ「特定役員」でなくても1/2課税が一部適用されない点に注意(退職所得控除を差し引いた後の金額が300万円を超える部分)。会社の規程で「自己都合退職は退職金が減額」される場合は、そもそもの受取額が変わります。

Q. 外資系企業で「サインオンボーナス(入社ボーナス)」を受け取った場合は?

入社ボーナスは「退職金ではない」ため、退職所得控除は使えません。給与所得または一時所得として課税されます。退職金と入社ボーナスでは税制上の扱いが全く異なります。


まとめ

  • 退職金は「退職所得控除」と「1/2課税」の二重の優遇で実効税率が非常に低い
  • 勤続30年なら1,500万円まで、38年なら2,060万円まで非課税
  • 役員(勤続5年以下)は全額、一般従業員(勤続5年以下)は「控除後が300万円を超える部分」について1/2課税が適用されない
  • 年金受取は社会保険料も含めて計算すると一時金より不利になるケースが多い
  • iDeCoを先に(60歳で)受け取り、10年以上空けて退職金を受け取ることで控除枠を最大化(2026年改正で5年→10年に延長)
  • 退職所得申告書の提出を忘れると20.42%が一律源泉徴収されるため必須

退職金は早見表で・給与の手取りはツールで確認

退職金の税額は、本記事の退職所得控除の早見表(勤続年数別)と計算式で確認できます。退職後も給与で働く方は、給与部分の手取りを計算ツールで試算できます(当ツールは給与収入向けで、退職金の計算には非対応です)。


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